0人が本棚に入れています
本棚に追加
窓から外の景色をぼんやりと眺めていると、店の奥の席が何やら騒がしくなってきていることにふと気付く。視線を向けた瞬間、ナックの足下まで男が1人吹き飛んで来た。
「・・・え?」
途端に上がる悲鳴と騒然とする店内。字体の成り行きが飲み込めず、口元を引きつらせてナックはその男を見つめた。
「こんにゃろう! フザケんじゃねぇ!」
「フザケてんのはテメーだカス! 俺の方が先だったんだよ!」
ケンカだ。誰がどう見てケンカだった。吹き飛んで来た男は止めに入って巻き込まれた本日最大に可愛そうな人だった。ケンカの内容は分からないが、とりあえず下らないことは確かだ。どうしたものかと(最も、ナックにはどうにもするつもりは無かったのだが)眺めていると、店員の女が仲裁に入っていった。
「お客さん、困ります。ケンカなら店の外でやって下さいよ。他のお客さんに迷惑がかかります」
声をかけられた男の1人がうるせぇ!と言いながら店員を突き飛ばした。きゃぁ、と倒れる女と息を呑む周りの人々。ナックもそんな中の1人だった。誰もがひやひやとしている中、1つの声が上がった。
「やめなさいよ」
一斉に視線が集まる。男達の視線も、店員の視線も、客の視線も、そしてナックの視線も。
「やめなさい。そして店員さんに謝りなさい」
「あっ!」
声の主を確認してナックは小さく声を上げた。そこにいたのは、昼間森の中で出会ったあの女の子だったからだ。
「全く。大の大人がみっともない。周りへの迷惑も考えず喚き散らし、仲裁に入った人を殴り飛ばし、挙句の果てに女性にも手を挙げるだなんて。最低にも程があるわ。だいたいケンカの原因もくっだらない事なんでしょ? 醜い醜態をさらけ出してよくも恥ずかしくないわね。あなた達には羞恥心ってものがないのかしら。そもそも間違ってると思うのよね。あなたたちの存在が」
静寂。誰もがポカンと口を開けてその様子を眺めていた。女の子のマシンガントークに男達もあっけに取られる。
女の子はフンッ、と鼻を鳴らし、
「分かったらとっとと消えて」
と、店の入り口を力強く指差した。
「な、めやがって・・・!」
ようやく、といった感じで男が声を絞り出す。火に油を注がれた男は、女の子に向かって手を振り上げ、誰もがその後の展開を想像し青ざめた。だが、青ざめることとなったのは男達の方であった。
最初のコメントを投稿しよう!