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『とにかく…今はここで大人しくしていよう…。な?マリア…』
『でも…どうせ墜落して死ぬだけよ…?』
『もしかしたら墜落しても生き延びるかもしれないだろう?』
『無駄よ…この真下の地面は…無数のドラゴンが徘徊する地だもの…。生きられる訳がないわ…』
『やめてくれマリア…』
『もう…私たちは死ぬだけ…』
マリアはそう言うと、何を考えたのか運転室からデッキへと出る扉の前に向かって歩き出した。
『マリア!?』
俺は驚きのあまりドラゴンたちに居場所が分かってしまうのではないかと言う程の大声をあげる。
『もう…死ぬのを待つなんて耐えられない…』
『マリア!!やめろ!!』
『来ないで!!!』
マリアがそう言うと、俺は引き留めようとマリアに走りよろうとする。
しかしマリアのその女性の力強い言葉で制止されてしまった。
『マリア…馬鹿なことはよせ!』
『…嫌…。死ぬのを待つなんて耐えられないの。それだったら…いっそのことあのドラゴンたちに食べられたい…』
『何馬鹿なこと言ってるんだ!?』
『ごめんなさい…。ザーカー…。この子は貴方の好きにして…』
マリアは悲しみに満ちた目で俺をみると、地面に赤ん坊をそっと置いた。
もうあの行動は死しか見ていない。
『マリア!!』
『さようなら…』
彼女はそれだけ言うと、デッキへと出る扉を開けた。
外からドラゴンの炎の熱風が吹き付け、マリアの髪をゆらす。
『…』
『マリアァッ!!』
彼女は再びこちらを見ると…ドラゴンで溢れるデッキに一人飛び出していった。
俺は大声を出し、その熱風が吹き込む扉にかけよるなり目を必死に開けて彼女の後ろ姿を見ようと努める。
『グァッ!!!』
『…!…さぁ。私を食べなさい…』
ここから先、見たもの全てが俺にとって絶対に忘れられない光景となるだろう。
彼女はデッキに飛び出すと、真っ直ぐ食材をあさるドラゴンたちの元にゆっくりと歩んでいく。
すると…どうだろう。
一匹のドラゴンがデッキを歩むマリアの行く手をはぶくむようにズシンと震動を起こしながら舞い降りた。
ドラゴンはマリアの前に着地するなり威嚇をしているのか低く唸る。
一方、彼女は自分より数倍巨大なドラゴンにたじろむことなくそう言うと、立ち止まりドラゴンを見上げた。
そんな彼女の姿は、やはり俺が出会った凛とした美しく、力強い女性の姿であった。
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