第4章 傷付きし竜愛者

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そう絶望しかけた瞬間、俺は突如腹に優しい温かさがあるのに気付く。 それが何か確認する前に、第三者の、希望の声が辺りに響き渡った。 『止めて!!』 ゆっくりと腹に視線を移して見れば、傷口から溢れ出す俺の血で体を真っ赤にしながら俺に抱き着き、アルドに必死の訴えの目を向けるアルが居た。 『アル…』 『アル…。そこを退くのだ。頼む』 『嫌だ!退かない!』 俺は微かな声でそう言うと、アルは弱りきった俺を必死に庇うべく愛しの相手に本気の怒りを見せれず戸惑うアルドに対抗する。 『アルド!こんなにやるなんて…酷いよ!』 『…』 『それに…怖いよ。悪魔みたいな顔してたよ…』 『…っ!』 相変わらず悪魔のような形相をしたアルドはアルに邪魔をされ、今にも俺を引き裂いてきた爪でアルをも引き裂いてしまうのでは無いかと心配するほど怪訝そうな態度を見せる。 しかし、アルドを愛しているはずのアルをも怖がらせてしまっていた事実を聞かされると、アルドの目に失っていた正気が戻る様が伺えた。 『あ…アル…?アルまで我を…あ、悪魔と…?』 『…だって、本当に怖かったんだもん』 『そ…そんなに、我、恐ろしかったか…?』 『…うん…』 アルドは愛しの相手に怖がられたことにショックしたのかさっきまでの恐ろしい形相と殺気付いた勢いは消え失せ、まるでアルに嫌われたくないとばかりに自ら立場を下げた聞き方をする。 『…』 『これが竜族の日常なのかもしれない。それはもう分かったよ。でもアルドも僕も、そんな竜族の掟みたいな物に従わなくちゃいけないの?』 『…む…』 『アルドはそんな狂暴なドラゴンさんじゃなくて、優しくて、温厚で、仲間思いのドラゴンさんのはずだよ』 『…』 『だから、アルドにはこんな酷いこと、して欲しくない』 アルの嫌われてしまったような発言にアルドは戸惑っているのか、小さなニンゲンのアルの言葉に、巨大な竜のアルドはうつ向き言葉が出ないようだった。 アル…、あんなアルドをこうも簡単に鎮めるなんて…。 やっぱすげぇよ…お前は…。 ヘルズは命の灯火が消えないようしっかりと意識を保ちながら、改めてアルのドラゴンに対する凄さを実感するのだった。
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