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ビュオォ!!
突然後ろから突風が吹いてきた。
戦いの最中で壁に穴が空いたのだろう。
……いや、それにしても不思議だ。
風が一つの場所に集まっていく、そんな感じがしたからだ。
……おかしい。
そう思って風が吹き抜ける方向を振り向いた。
「な、なんだあれは!?」
勇者の目の先には空中に渦巻く黒いものがあった。
辺りの瓦礫やらを次々と吸い込んでいく。まさにブラックホールと言ってもいいようなものだ。
そう、あの風はこの不気味な黒い渦に吸い込まれていく空気の流れだったのだ。
勇者は危険を感じ、直ぐ様逃げ出そうと走り出す。
明らかにあれは自分を吸い込もうしている!
だが黒い渦は行かせないと言わんばかりに吸い込む力を強める。
「く…そぉ…!」
本来の自分の力ならすぐにこんなもの抜け出せる。
だが、今は違う。魔王との戦闘で全てが疲れ果てていた。
力が、入らない……。
「私は…帰るんだ…!故郷へ!みんなのもとへッ!!」
そんな勇者の言葉を嘲笑うかのように、黒い渦の力はまたさらに強くなった。
ダメだ……吸い込まれ────
そしてついに勇者の足が地面から離れた。
抵抗も出来ず、空気の流れに身を任せるしかない勇者。
そして色のある世界から黒い渦に引き込まれる瞬間、微かに声が聞こえた。
「せいぜい異世界で頑張るんだな、クククッ」
この声、聞き忘れるはずが無い。
それは確かに魔王の声だった。
あれほどの斬撃を加えた。死をも認識した筈だった。
なのにそれは、苦しそうでもなく、辛そうでもなく、
戦う前と同じように余裕のある声だった。
「な、何故だァァァァァ!!!」
勇者は叫ぶが、もう魔王の声はない。
そして、
暗闇に飲まれていくとともに、勇者の意識は薄れていった。
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