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「残念ながら、私の使命は果たせなかった」
琴音は大粒の涙を零しながら、寂しそうに笑っていた。
それなのに、私はちっとも悲しくなかった。
どこかで、こうなると分かっていたから。
だからこそ、私には理解できないのだろう。
琴音が生まれた、その理由が。
「大丈夫、何も変わらないよ。ただ、今まで通りに戻るだけ」
泣きながら笑う琴音は、今までに見たどんな笑顔よりも綺麗に見えた。
締め付けるような胸の痛みを、私は無視し続けた。
意識してしまうと、私も泣いてしまいそうだったから。
「またね」
突風と共に舞い上がった桜吹雪は琴音を包むと、そのまま私に吸い込まれた。
思わずつむった目を開けば、一面の闇。
そうして琴音は消えてしまった。
私の中へ、消えてしまった。
私が導き出せない答えを、琴音は知っていると言う。
果たせない使命が、琴音にはあったと言う。
理解できない胸の痛みの答えを教えに、また琴音は生まれて来てくれるのだろうか。
その答えを、音々は知らない。
音々は歩き出した。
胸の鼓動か落ち着きを取り戻した事に、気付かないまま。
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