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閑話休題。話が逸れた。
まあ僕が優しいかどうかなんて議題は、髪の伸びる日本人形に擬態化させて鞘真の家の玄関にでも置いておくとして。正直、あいつのことが気になっているのは事実だ。
脅威の強制によって問題解決に仕方なく乗り出したわけだが、それでも一度乗った船。無事目指した岸に辿り着けるか心配するのは、当然といえば当然だろう。
「説得の下手な私が一郎さんを言い負かすという快挙を成し遂げたところで、そろそろいきませんか? 状況を窺いに」
自覚はあったらしい。
しかしてどうしたものか。気持ちだけなら"行きたい"が先行しているものの、それが即ち"行くべき"にはならない。
今回、僕はよくも悪くもスイッチ役を担っただけ。最終的に動くことを決めたのは北条自身だ。
あいつの決意。あいつの覚悟。そこにこれ以上手を出していいものか。あまりこちらが心配して世話を焼きすぎても、たぶんあいつのためにはならない。
だからこそマッチョさんは、気遣いこそすれ、患者側から要望が出るまでは、彼女をあえて面倒な一家の担当から外さなかったのだと、関わった今ならなんとなく分かる。
悩む。思う。考える。それらの動作を中断させたのは、無遠慮な態度の訪問者。
ドアが勢いよくガラガラ開いて、ピチピチのナースがご登場。
「元気してるかい? 童ども」
噂をせずともそのマッチョさんである。ちなみにピチピチなのは言うまでもなく白衣だ。
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