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なにか用でも? と聞くより先、
「よくやったな、あまのじゃく」
僕に賞賛が降り注いだ。
「計画性の有無は知らないが、あのナースはどうやら"らしさ"を取り戻したらしい」
北条のこと、なんだろうな。
「そりゃ約束ですから」
鼻を鳴らして少し気取ってみる。
そんな感じでてっきり契約満了したと高を括っていた僕へ、
「ああ。達成まであと一歩だな」
あたかも当然のように、そんな言葉が返された。
「あと……一歩?」
「そうさ。おまえは困っているあいつを助けてやるんだろう? あいつは今ナースとして、人として一皮向けかかっている。だがそれはおそらく、一人ではちと困難だ」
ハァ……。おおっぴらに命令するとあまのじゃくになられるからって、まどろっこしい言い方しちゃってさ。
「……つまり僕はあとなにをすれば、真に約束を守ったことになるんだ?」
食う気はさらさらないけど、食えないこの人のことだ。どうせその獣のような瞳で先を見据えているんだろう。
「仕事が一段落して、北条が雷太と話にいくのが六時。で、平日、雷太の両親が見舞いに来るのもいつも決まって六時だ」
「なるほど。足止め、ね」
「フン。私は立場上、あまり目立った発言はできない。おまえのよく回る舌に期待しているよ」
「ナースも大変ですね」
「変わってくれるのかい?」
「変わっていいんですか?」
「遠慮しておくよ」
「それが得策です」
あ~あ~。死にたガールと過ごすはずだった時間が、残念なことに別の用事で埋まってしまった。
……まったく、世話の妬けるナースだ。
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