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そこにいたのは、綺麗に手入れされた背まである長い黒髪を肩に乗せ、遠く彼方をぼんやり見つめる乙女。
それも美少女。ただし薄幸オーラ全開の。
彼女の首がスローモーションでこちらに向く。三秒はあった。
そしてクリクリの瞳に僕を映しながら口を開く。
「キョ、キョトン?」
疑問形? こっちがキョトンである。
まあそれでも意味は通じたので、もう一度。
「キミは死にたいのかい?」
出来うる限りの真面目な顔で、同じく誠意を伝えるべく目を見て尋ねた。
彼女は考えているのか、漠然と漠然を楽しんでいるのか。しばらくこちらを黙ってただじっと見つめる。
ようやく動きがあったのは、そろそろ僕の沈黙耐性に限界がやってきた頃。
ゆっくりと。じっくりと。彼女は再度、視線を窓の向こうに投げた。
その先にあるのは、駐車場脇で冬の寒風に晒され震える枯れ葉の生った木。
ヒュルリ。そんな音でも聞こえてきそうな一陣が、その中の一枚をさらっていく。それを儚げに見つめながら、
「コクリ」
言葉と同じく頷いた。
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