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「私、もうあんまり長くないの。次の年は笑ってられないだろうって。ニコリ」
悲しげに、力なく笑う彼女の水晶のように澄んだ瞳の奥には、諦めの陰りが差していた。
「どうせ終わるなら早くしてほしい。いつ来るか分からない死を待つのは嫌。心が壊れそうになる」
出会って初めての会話が、こんなにも切実で重々しいものでいいのだろうか。
否。良い悪いじゃない。続けてほしい。
そう、これは願いだ。
あまのじゃくな僕は普段、他人の命令や願望を聴いてから、それと逆のことをしたいと望む。
つまり受け身の姿勢。反抗さえできればそれでいい。
ただしこのときばかりは。
僕は"あまのじゃくであるために、彼女から溢れるたった一言を待ち望んでいた"。
もっと言うと、僕は久方ぶりに抗いたい対象を見つけた。
息を飲んでそれを待つ。
だから彼女からそれが単純明快に口にされたとき、
「……あーあ、早く死にたいなぁ。ションボリ」
僕は悦を覚えた。
そんなことをヒラリ落ち行く枯れ葉を見ながら呟かれたら、最早いてもたってもいられない。
────儚い願望を踏みにじってやりたくなるじゃないか。
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