序章

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 夜空。星空。遠くに外灯が一つ。  川のせせらぎ。土手に生える雑草が風で揺らぐ音。鈴虫の鳴き声。  頬を撫でる風の感触。座っている岩の冷たく硬い質感。  後は何も無い。  胸ポケットから煙草とライターを取り出すと、最後の一本だったことに気付く。 「……終わりか……丁度良いな」  最後の一本に火を付けると、その周囲だけが微かに色を取り戻す。 「つまんなかったなぁ……」  紫煙を吐きながらそう言葉を漏らす。  吐き出した紫煙が暗闇に融ける様を目で追うが、完璧に消える場面を捉えることは出来ない。 「……こんなもん……なのかな?」  いつの間にか煙草の火はフィルターの近くまで迫って来ていた。  最後に一回大きく吸い、煙草やライターと同じく胸ポケットから携帯灰皿を取り出しその中に押し込める。 「煙草一本吸ってる間に思い出せる人生って……」  そう自嘲気味に笑い、立ち上がる。  まだ岩の冷たさや、固さが残っている。  ふと、さっきからやたらと独り言が多いことに気付き、また自嘲気味に笑う。  数秒笑った後に、川に向かって歩き出す。  くるぶしまで水に浸かると、少々冷たさを感じるが、それでも気持ち良いぐらいだ。  膝まで浸かった時だった。 「お前……死ぬのか?」  女の子の声が聞こえたのは。
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