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店の裏の空き地
おじさんが自分のミットをポンポンと叩き、いくぞ言った。
俺もグローブをはめる。
大人用だが、俺の手は普通の小学生よりはでかいので、ちゃんと使いこなせる。
もっとも、このグローブはブカブカの頃から使っているが。
そのせいか、大分ボロイ。
「いいよ~」
俺が合図を送り、おじさんがボールを投げる。
バシィィッ
基本的におじさんは加減というものを知らない。かなり速いボールが投げてよこされる。
だがそれはもう慣れっこだ。俺が取りこぼすことはまずない。
どちらかというと…
「いくよ~」
バッシィィン!!
コロコロ…
歳のせいかおじさんが取りこぼすことが多くなった。
「おおう、ワリィワリィ」
「おじさ~ん、疲れてんじゃないないの?今日はやめとく~?」
「バカヤロー、甲子園優勝捕手をなめんなよ」
「そんなの20年前の話しだろ。そんなイニシエの話し意味ないだろ~」
「イニシエだと、コノヤロ、おらぁ、とってみやがれ!」
おじさんの投げたボールは俺の頭を越えて飛んでいった。
「どこ投げてんだよ!」
音弥はボールを追って走る。
まったく、一球目からなんちゅう球投げやがる…
市村仁は内心そう思っていた。
仁は20年前に甲子園でキャッチャーとして優勝した経験がある。
そんな自分が小学生の球を、しかもただのキャッチボールで取りこぼしたことが信じられなかった。
たしかに最近、歳のせいで視力が落ちてる実感はある。だが音弥の球を取りこぼすのはそれだけが原因ではない。
速いのだ、めちゃくちゃ
おそらく、音弥は自分以外の誰かとキャッチボールをしたことはないだろう。だから加減がわからないのだ。
音弥の野球嫌いは知っている。
だが、この子にどうしても野球をやらせてみたいと思っている。
そうすれば、もしかしたら…
音弥は父を、風切大輔を理解してくれるのではないだろか。
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