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当主の部屋から出て来たのはモノだった。白い衣が黒く染まっている。手も、何か黒い液体がこびりついている。相変わらずの無表情が、壁に手をつく俺を見据えた。
「…一足遅かったな」
「…!」
当主は。既に。
「明日の朝には正式に当主交代の報を出す。お前はこの屋敷に留まることを許す」
去ろうとして、モノはふと立ち止まった。
「ついでだ。中を片付けろ」
鬼。
当主の部屋の重たい扉を開ける。暗い色調の、夢に見たそのままの部屋の片隅に、黒い砂が盛っていた。
ルクストルティワ一族の当主は、永遠に生きる枷を負う。気が狂う程永い生を終わらせることができるのは、自らの子のみ。そのサイクルこそ、醜い悪魔。人間が最も嫌うこと。
俺は砂に近付く。
「……父様」
無意識に口にした。
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