第一刻《始刻》

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   Ω ――子ノ刻…  その日の夜、ヤツは闇夜を蠢いていた。 「……………はあ…」  こればっかりは溜息しか出ない。  子供には虐げられ、妻には逃げられ、挙げ句の果てには上司に居眠りで怒られる始末である。今なら某五歳児アニメのアノ人を越えられそうだ。  マンションのエントランスからエレベーターに乗って、ディジタルな「九」のボタンを押す。すると、鏡や手すりが付いた大きな箱が動き出し、九階を目指した。 「…………!…またか……はあ…」  だが悲しくも、家が掛かっていた。  仕方無く、またエレベーターで一階のエントランスへ戻り、大家さん(管理人なのだが、出掛ける人々とたわいもない話をするため、アパートの大家さんに似てることから)の家の呼び鈴を押した。すると、まるで本物の大家さんかの様に大家さん(管理人)がでてきた。 「…はあ……、またですか……」 「…はい……、すみません……」  そして、全てを語ったのか、部屋に招き入れてくれた。客間に座るように指示し、お茶を淹れてきてくれた。 「あなたも大変ですねぇ…狩野さん……」 「…はい……、そうなんです……」  哀しみの二児の父、サラリーマン蓮は毎晩こんなことが続いている。  経緯を話すと、『夜は狼が出るから危ないのよ』と愛する我が娘はそう言って、夜になると鍵を閉めた。  …成程。狼=このワタクシなんですね。わかります。ここで、『じゃあ、丈が危険人物だな』とか言ったら今俺は生きていないだろうな…。 「…まあ…お疲れでしょうからどうぞ。いつもの通り、布団を用意してますから」  と、ほとんど蓮専用となっている、寝室を提供してくれた。 「…はい……、ありがとうございます……」  従って、蓮は眠りについた。
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