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景色を楽しむことなく、魔王はスタスタと町を歩いていた。
後ろの手品師を気にかける様子もなく、ただひたすらに先を急ぐ。
明るい内に町を見て回りたい。魔王の思いが伝わっているのか、はたまたそんなこと感じる余裕が無いのか。手品師は無言で後ろを付いて来た。
もともと、町に入ろうと言い出したのは手品師のほうだ。なのに、探索は魔王任せ。
「腹立つなあ……」
「え……腹減った? ……僕も……」
気弱そうな声が、さらに気弱に聞こえる。生命維持のために吐き出される息、そのついでに言葉を発しているようだ。
「甘かったよ……、あ……考えがだよ? 別にデザートの話しじゃ……」
くるっと魔王は体を反転させた。
「うっせぇ!! ちょっと黙ってろ!!」
「さっきまで静かだったよ、僕。ああ、そうか、お腹が減ってんだね、だからそんなに気が立って」
「俺は腹なんか好いてないっつ―の、空腹なのは手品師だろうが!!」
「だってさ……まさか食料が底を尽きるなんて……」
参っちゃうよね。力無く手品師が笑った。目が虚ろなのが怖い。
「僕の記憶ではまだまだあったはずなんだけどなあ」
「次からは“収納したものの記憶”も記憶しとけ」
「面倒くさいんだよ。形無いものを仕舞うのって」
「言ってる場合か」
このまま話していても仕方ない。魔王は舌打ちをしてもう一度手品師に背を向けた。
「おら、さっさと歩くぞ。ここがお前の死に場所になるかもしんねえぞ。色んな意味で」
「…………」
「返事しろ……よな?」
なにも反応が無いのでまた振り返ると、そこには今来た町の景色しかなく。魔王の足元に手品師の頭があった。
「……おいおい」
空腹で行き倒れ、てマジですか?
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