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いくら魔王と言えど、筋力はいち成人男性のそれとなんら変わらない。自分と同じぐらいの男性を抱えたまま町を探索することは、できなくないがやりたくない。魔物の助けを借りることも考えたが、たかが人一人運ぶために呼ぶ魔物など、魔王の下部リストに記載はなかった。
魔王の取った行動は簡単だった。その場にしゃがみ込んで、時が過ぎるのを待つことだ。
先に進むことも案の中にはあったが、手品師を目の届かない場所で野放しにするのは嫌だったし、死ぬなら死ぬで見ておきたい。
魔王が見上げる空は茜色に染まりだし、太陽は沈み、影が長くなりだしている。夜が来るのだ。
魔王は上着を出そうとし、手品師が喋れない状態にいるのを思い出した。話し掛けようとしたが、上着を諦める。少々肌寒いが、なんとかなるだろう。
静かな町は静寂が耳にささるようだった。昼間でさえ静かだったのだ。夜になればどうなるか、想像しただけで面白い。街頭も機能していないであろう町は、おそらく夜も暗闇なのだろう。
捨てられ、死んだ町。
空を突き抜けるように伸びる高層ビルも、その下に伸びる道路も、端の歩道も、自動車も、自転車も、それを取り巻く空気も、全て全て死んでいる。
捨てられてから、そこまで長い年月は立っていないはずだ。建造物は綺麗なままだし、街路樹も枯れてない。
腐臭は漂ってないことから、疫病の類で捨てたんじゃらいらしい。ほかに町を捨てる理由は、候補がありすぎて絞りきれない。
魔王はチラッと手品師を見た。暗くなりだした辺りの中、手品師の背中がわずかに上下する。まだ生きているようだ。
野垂れ死ぬのって、どのくらいほっとけばいいんだろうか。人の生命力を一人で議論していると。
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