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神様が一品料理を出せば、手品師は飲むように喉に押し込んだ。
料理がそろうまでとか、神様が来るまでとか、魔王の分を残しておこうとか、手品師は微塵も感じさせなかった。
始めは呆れていた神様だったが、見事な食べっぷりに気を良くしたのか次々に料理を運んでくる。しかもなかなかレパートリーに飛んでいた。匂いもいい。この腕なら、すぐにお嫁に行けるだろう。
「まおう」
「ん?」
「ッ……いる?」
「いいから食え」
食べかけの皿を差し出すが、魔王は首を横に振った。食べたい気持ちはあったが、他人の食べかけは食いたくない。
「大丈夫ですよ、食材はまだまだ残ってます。魔王さんにだす分はありますから、安心してください」
緊張感が解けたあたりから、神様は丁寧語を話すようになっていた。魔王はなにも感じないが、手品師はどうも気になるらしい。タメ口でいいよ―、と言ったのだが、神様はこの話し方が一番楽だと言って直さなかった。
「料理上手いんだね、神様」
「そんなことないですよ。これくらい周りの友達はみんな出来ました」
「そうなんだ。でも美味しいよ」
「ありがとうございます」
ほんとに嬉しそうに神様が笑う。それを見て、手品師も笑顔になった。すっかり生気の戻ったその顔を見て、魔王だけが面白くなさそうに舌打ちを付く。
あまりに小さい音に二人は気づかない。
「ご飯のおかわり、ありますよ」
神様の優しい言葉を手品師は素直に受け取る。結局、手品師一人で炊飯器一つ空にした。
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