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望まない『何か』との遭遇を出来るだけ遅延させるため、緩慢に、いや酷くぎこちない動作で、首から順に体を反転させた。
そのほんの一秒たらずの行動の間に、眼前の景色がさざ波のように乱れ、境界を失った世界に人工の建造物とは全く違った風景が割り込んだ。
それはまるで、何かの別の映像がテレビをジャックして、ノイズを引き起こしながら完全に乗っ取ってしまったようだった。
再び、風が吹いた。
上から吹き下ろす追い風は、俺の背中を強く押した。
「は…………?」
後ろにあったはずの町と下り坂は、一面の広大な草原と獣道に成り代わっていた。
薄い青緑色の草に塗りつぶされ、ずっと見晴らしのよくなったこの町は、遥か先の地平線までもが見渡せるようになっていた。
また、風が吹いた。
今度は横から吹いた風は、どこまでも尽きることの無い草原に幾重もの波を立てて、俺の心にまでに及ぶざわめきを起こした。
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