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俺は、人を殺していた。
俺を殺そうとする人々を、次々に殺していた。
どこまでも続く荒れ果てた不毛の地で、この世に薄汚れた蓋を被せたように見える灰色の空の下で、足元にまとわりつく小五月蝿い人間どもをねじ伏せていた。
俺がそっと腕を振り上げれば、奴等は恐怖に声を上げ、畏れおののいた。
ただ優しく手で薙げば、砂に書いた文字が波にかき消されるように命が飲まれていく。
一つ言葉を紡ぐだけで、奴等は風に舞う塵のごとく飛ばされ、無惨に地面に叩き付けられた。
それでもなお、生き延びたものは潰れかかった体を引きずり、命を捨てて俺の体に剣を突き立てた。
人間なんて、なんと脆弱で儚く愚かなものか。
無理だと、無駄だと、解らないのだろうか。
お前らに、勝ち目なんかないのに。
俺は人間たちを紅い焔で焼き払った。
……どれだけ、この無意味な戦いが続いたのだろうか。
あるとき急に、視界が蜃気楼のように揺らいだ。やがて、辺りは徐々に暗い闇に包まれていった。
これは……何なのだろうか。
奴等の喧しい声と、体を貫く刃の感触だけがただ感じられるようになった。
…………これから先、この世界はどう変わっていくのか。
でも今は、そんなことはどうだっていい。
俺も、もう疲れた。
……疲れたんだ。
真っ暗になった俺の世界に合わせて、自分も目を閉じて眠ることにした。
少しだけ
ほんの少しだけでも
心安らぐ夢が見たい。
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