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「イヤッフー!」
悲しみを紛らわすために、足元に転がっていた空き缶を某配管工の声真似をしながら蹴り飛ばした。
強く蹴られた缶は悲鳴にも聞こえる音を立てて転がっていった。
「うおぉっ! 立った!」
立った!
クラ……空き缶が立ったわ!!
逆さまに、だけどな。
缶は坂道の中央をやや外れて、逆さまに立って止まった。
多少はおもしろくて珍しい光景だ。
周りに自慢できる相手が誰も居ないけれど、声真似も聞かれなかったから善しとしよう。
少しだけ上がったテンションに乗せて歩を進める。よし、帰ったらラブプ○スという名の別のリアルにダイブしよう! そう、向こうの世界こそが真の俺のリアル。
何故かって?
彼女がそこにいるからさ。
「あれ…………?」
よく考えてみると、やけに静かだな。
いつもならこれくらいの時間には家路を急ぐ人たちが今の俺のように赤い町並みを歩いているのに。
坂道のずっと先の、眩しくてよく見えない太陽の足元まで目をこらしたが、路上には俺しかいないようだ。
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