とある孤立者(ぼっち)の人生迷走(ストレイング)

7/26
前へ
/59ページ
次へ
「おかしい……」 これは絶対におかしい。 何故、誰も歩いていないんだ? 疑問を抱きつつも、とにかく歩き続ける。 すると、更なる異常に気づく。 家に着かない。 違うんだ、迷子じゃない。 なぜならこの道をずっと行ったその先の、すぐ横にあるのが俺の家だからだ。 家にしか居場所の無い俺が、帰り道を間違えるはずがない。 「どういうことなの……」 また独り、呟く。 いくら歩き続けても、左右の家々は代わり映えのしない塀と外観しか見せない。 「くそっ!! どういう事だ!?」 だんだん早足になりながら愚痴をこぼし、何も変化を見せない景色を恨めしく睨む。 がっくりと足元に視線を落とし、また歩く。 「…………っ!!?」 これは……!? 声が出なかった。 未だ赤い道路。 その中央をやや外れた位置に、逆さまになった空き缶が立っていた。 間違いない。これは俺が蹴ったやつだ。 道が……ループしている? つぅ……っと、冷や汗が頬を伝った。 そして、それに気がついた瞬間から、この町が急激に現実味を失い初めた。 まるで夢の中のように、そこにあるはずなのに存在しないみたいに。 「マジかよ……」 さらに俺は、決してあり得ない事実に気づいてしまった。 太陽が、全く動いていなかった。 俺は長いこと、延々と歩き続けていたはずだ。 時間にして一時間半。 それなのに、赤々と町を照らす太陽は今でもさっきのまま。 静かに地平線の上に浮いている。 それはまるで、じっと沈黙しながら俺を見詰めているようだった。 明らかな異変と得体の知れない恐怖を感じ、背筋がじっとりと嫌な汗に濡れた。 変わらない町並み。終わらない道。沈まない夕日。 恐ろしさの余り、歩みを止めた。 じっと夕焼けを眺めてみても、溶けるように揺らぐ様はさっきと同じ。 呆然と立ち尽くす。 何が……起こっているんだ? やがて俺は、ある一つの考えに至った。 どこまで歩いても無限ループをする町。どんなに前に進んでも終わりがない道。 なら、引き返せばどうなるのか? 実はこの考えは少し前からあったんだ。 進めないなら戻ればいいじゃない、と。 でも、すごい嫌な予感がしたんだよ。 なんだか……絶対に振り返ってはいけない気がして。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加