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「三井さん、遅刻です。はい、生徒手帳だして?」
「へ?」
ゆき乃は間の抜けた声を上げた。見ると豊川は手のひらを上にして、生徒手帳を待っている。
(アハハ…何あせってるんだろ、私)
「すみませんでした」
慌てて生徒手帳を豊川に渡す。
「これは放課後、職員室で返します。さあ、教室へ急ぎなさい」
そう言うと、豊川はにっこりと笑った。
(最悪……今日は豊川先生が遅刻取締りなんて)
しっかり者のゆき乃だが、遅刻だけは常習犯である。
「家が近いから油断しちゃうんだよね……」
ゆき乃はガックリと肩を落として教室へ向かった。
放課後になり、担任の豊川から生徒手帳を受け取り、桜咲く通学路を自転車で帰る。
「もう、遅刻はダメですよ?」
そう言って生徒手帳を返してくれた豊川の笑顔を思い出していた。
(先生みたいなお兄ちゃんがいたら良かったな)
にやけそうになる頬を押さえつつ、自宅が隣接する三囲神社の境内へ入ると、
「ゆき乃!」
突然、神主である父の雪雄から声をかけられた。切羽詰まったような声だ。
「お父さん、どうしたの?」
(まさか、遅刻したこと怒られる…?)
その先の展開を予想して、ゆき乃は青ざめた。
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