三囲神社の巫女

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しかし、父の雪雄は申し訳なさそうに、 「明日、俺の代わりに花川戸の竣工式(しゅんこうしき)に行ってくれないか?」 と、ゆき乃に尋ねた。 「花川戸って言うと、辰おじさんのとこの町会事務所が完成したの?」 花川戸町会は浅草寺からほど近い地域だ。 そして、建物の完成を祝う儀式である竣工式。建物が無事に竣工した事を神に報告し、感謝の気持ちを示すために行う。 それと同時に竣工した建物の堅牢と末永い繁栄を神に祈願する。 建築は現代でも、密接に神道と結びついている。 「そうそう、辰っちゃんの町会。手違いでゴルフの予定入れちゃってさ。頼むよ、ゆき乃」 父、雪雄は大げさにゆき乃に向かって手を合わせる。 「もう、お父さんたら・・・いいよ、明日は特に予定もないし」 ゆき乃は、ため息まじりに言いながらも、遅刻がバレず内心ホッとしていた。 「悪いな。でもな、明日は浅草神社の光源氏が来るらしいから期待して行けよ」 そう言ってニヤリと笑うと、雪雄は鼻歌混じりに境内の掃除を続ける。 (ふ~ん、浅草神社の光源氏かぁ。噂には聞いたことあるけど…) ゆき乃は、平安絵巻に描かれた光源氏を思い浮かべた。 「…プッ」 そして、思わず吹き出した。
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