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「着いたよ」
「ありがと」
ひょいと自転車から降りて、向き直る。
時間に余裕がある。
ふいにすっと遼の手が私の頭に伸びる。
「美純(みすみ)」
改まって話し掛けられると、居心地が悪くなる。
まっすぐ見つめられると、呼吸が苦しくなる。
コイツ、自分が容姿イイってのわかってこういうことしてんのかな。
「なに」
「化粧しないほう、かわいい」
頭に置かれた手が、くしゃりと髪を乱して撫でていく。
一瞬、子供みたいな顔でふんわり笑って、手を離した。
すべての動きがスローモーションになる。
ここだけ時間が止まって、回りの雑踏も聞こえなくなったような錯覚。
遼は一撫ですると自転車のハンドルに手を掛けた。
「じゃ」
「……じゃあ、ね」
軽く上げた手を下ろし、離れていく遼の背中を見つめる。
なに、
なにいまの。
―――化粧しないほう、かわいい
ばくばくと、忙しなく心臓が動く。
駅の構内からアナウンスがかかり、はっと意識を戻して電車まで走った。
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