遠い、隣

8/16
前へ
/23ページ
次へ
熱い頬を押さえながら電車に乗り込んで、気が付いたら目的の駅に着いていて、ふらふらしながら学校まで歩く。 ヤバイ。 胸に落とされた爆弾。 私たちからすれば化粧しないほうがかわいいだなんて、酷いけなし言葉だ。 なのに。 久し振りに会話した幼馴染みのけなし言葉に……ときめいてしまった。 なんたる誤作動…………。 しばらく、恋愛していないからか? 「……やっぱ彼氏作ろうかな」 「何美純、彼氏欲しいの」 後ろから耳元で囁かれた。 ばっと振り向いて耳を押さえる。 「おっす」 アッシュブラウンの髪をくりんくりんに巻いて、前髪をピンで止めた“いかにもギャル”って容姿の、京香(きょうか)が片手を上げて立っていた。 「へんな挨拶やめてよね……朝から」 「やー、美純がでっけぇ一人言呟いてたから」 「え、一人言いってた?マジで?」 「自覚ナシはヤバイっしょ。つーか………美純、顔どしたの?」 言われてはっとする。 今日はナチュラルもいいとこな手抜きメイクだった。 「すっげーそれ、コダック喜びそうなんですけど」 コダックというのは担任で生徒指導の古田(ふるた)のことである。なかなか今時いないような熱血漢で、まぁ…他の先生方からもかばってくれたりする、いい教師だ。少なくともクラスのみんなはコダックが好きだと思う。 「寝坊……、一限出席ギリだしヤバイ焦ったつーの」 二人ダベりながら内履きに変え、かかとのつぶれたローファーを下駄箱に突っ込む。これまた内履きもサンダル履き。 ……これが、私達。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加