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俺は苦しそうに側溝に向かう彼女のもとへ駆け寄った。
ふと見えた側溝の中には水が音もなく流れていて、暗いせいか真っ黒に濁っているようだった。
「大丈夫?」
俺は声をかけながら、彼女の両肩に手を置いて横から覗き込んだ。
いったん落ち着いて、つらそうに肩で呼吸をしながら、彼女は涙目で俺を見た。
「大丈夫じゃない。」
と、彼女は言った。
強がった心のヒビから漏れた本音のようだった。
明らかに俺ではない兄ちゃんを見るときの目をしていた。
俺は溢れそうになる欲求をぐっと押さえ込んで、体に入った力をなだめていくことで精一杯だった。
やめてくれ…。
そんな目で俺を見ないでくれ。
俺はミキちゃんの好きなユウトじゃないんだ。
俺に兄ちゃんを重ねないでくれ。
心の中で念じながら、俺は彼女から目をそらした。
確かに俺と兄ちゃんは見た目だけなら、似ているとよく言われた。
でも、それとは真逆で中身は正反対だった。
俺は、何でもそつなくこなす兄ちゃんを妬んでいた。
比べられるのが嫌だった。
何をやっても、兄ちゃんの方が上で、そんな兄ちゃんが羨ましかった。
単純に腹が立って、ちょっとずつ自分が傷付かないように、何かを割り切って諦めていったのをよく憶えてる。
小さい頃から溜りに溜まった敗北感が、俺の自信を小さくしていった。
兄ちゃんがいなかったら良かったのにって心の底から思ったこともあった。
兄ちゃんはどうだったのかな?
小さい頃は喧嘩もよくしたけど、中学校に入ってからはそんなに話さなくなったよな。
兄ちゃんもこんな弟はいらないって心から思ったことあるのかな?
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