Ni-chan

11/18
前へ
/68ページ
次へ
俺が一瞬、物思いにふけっていると、彼女は再びキモチ悪そうに唾を吐き、のどに詰まるようなセキをしていた。 俺はしゃがんで、苦しそうにしている彼女の小さな背中をゆっくりとさすった。 薄い肉付きの細身の背中が手のひらの感触から伝わった。 「飲みすぎだろ。 あんまり無茶すんなよ。」 なんとなくそれっぽいことを彼女につぶやきながら、俺は優しい人のふりをしていた。 でも彼女にはそれがわかっていて…。 「何とも思ってないくせに…。」 鋭く返された。 俺は言った。 「そんなことないよ。」 そんなことない。 本物のユウトなら、そんなことはないんだ。 あいつは本心で人を心配する人間だった。 俺は知ってる。 その優しさが胸を詰まらせて呼吸もできなくなるほど嫌いだった。 なんでだっけ? あれ? やっぱ、あんまり覚えてないや。 「本気で心配なんだ。」 弁解しようと出てきた言葉が、小学生でも言えるような余りにも簡単な言葉で、俺は自分自身が情けなく感じた。 もっとうまいこと言えるだろ。 俺の生真面目な発言が、酔っ払った彼女の心に届いたのかは、わからない。 でも、彼女は意外とすんなり俺に言った。 「へぇー。そんなふうに思ってくれるんだ。」 酒臭い息を吹きかけながら、顔を正面から寄せてきた。 とろんとした目で、素の表情の彼女が試すように俺に迫る。 挑発だと察した俺は思わず顔を遠ざけた。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加