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俺が一瞬、物思いにふけっていると、彼女は再びキモチ悪そうに唾を吐き、のどに詰まるようなセキをしていた。
俺はしゃがんで、苦しそうにしている彼女の小さな背中をゆっくりとさすった。
薄い肉付きの細身の背中が手のひらの感触から伝わった。
「飲みすぎだろ。
あんまり無茶すんなよ。」
なんとなくそれっぽいことを彼女につぶやきながら、俺は優しい人のふりをしていた。
でも彼女にはそれがわかっていて…。
「何とも思ってないくせに…。」
鋭く返された。
俺は言った。
「そんなことないよ。」
そんなことない。
本物のユウトなら、そんなことはないんだ。
あいつは本心で人を心配する人間だった。
俺は知ってる。
その優しさが胸を詰まらせて呼吸もできなくなるほど嫌いだった。
なんでだっけ?
あれ?
やっぱ、あんまり覚えてないや。
「本気で心配なんだ。」
弁解しようと出てきた言葉が、小学生でも言えるような余りにも簡単な言葉で、俺は自分自身が情けなく感じた。
もっとうまいこと言えるだろ。
俺の生真面目な発言が、酔っ払った彼女の心に届いたのかは、わからない。
でも、彼女は意外とすんなり俺に言った。
「へぇー。そんなふうに思ってくれるんだ。」
酒臭い息を吹きかけながら、顔を正面から寄せてきた。
とろんとした目で、素の表情の彼女が試すように俺に迫る。
挑発だと察した俺は思わず顔を遠ざけた。
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