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確かめたいのは俺じゃないだろ?
俺は酔った彼女から離れたくて立ち上がろうとした。
すると、彼女の手が絡みつくように俺の右腕を掴んだ。
力はそんなに強くなかったが、彼女の必死さが伝わってきて、俺の体を引き止めた。
そのせいで、俺は立ち上がれずに彼女の口元を見つめていた。
「待って、いかないで。」
俺の存在を自分の中に取り込もうとする生き物のように彼女は体を寄せてきた。
俺はその時の彼女の表情が何とも言えず恐ろしくて、さみしそうで、悲しかったから、動けなかった。
頭の中で必死に保っていた平常心が違う気持ちに支配されて狂いだした。
ダメだ。
ぐちゃぐちゃに心を乱された。
もう、どうにでもなれ。
俺はしゃがんだまま彼女の体に手をまわした。
何も言わずにぎゅっと抱きしめた。
自分の感情に嫌悪感さえ感じる。
彼女の腕が無抵抗にだらんと揺れた。
小さくて細くて繊細な彼女の体を感じた。
こんなに小さかったっけ…。
香水と酒の匂いがして、彼女は震えていた。
俺はだんだんと力の抜けていく彼女の体を大事に大事に支えていた。
俺はゆっくりと目を閉じた。
頭の中には兄ちゃんがいて、無言で俺をじっと見ているようだった。
…ごめん。
俺は心の中でつぶやいた。
俺じゃないと思いたいけど、これが俺。
彼女の救いを求めるような態度に耐えられなかった。
もともと、ミキちゃんはそんな女の子じゃない。
俺は知っている。
兄ちゃんが死ぬまで、兄ちゃんを一番近くで見ていた女の子で、それなのに、兄ちゃんに好きだっていう気持ちを伝えることができず、兄ちゃんに彼女ができたときも、別れたときも、気にかけてた女の子だ。
兄ちゃんの葬式で一番最後まで残って、ずっとハンカチを握って目をパンパンに腫らして泣いてたのを覚えてる。
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