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いつもシャワーを浴びた後のような涼しい表情をしていて、可愛いかった。
横顔が誰よりも綺麗だった。
意外と度胸があって、男勝りなときもあるけど、やっぱり女の子、弱いときは、とことん弱い。
「私はあんたの兄ちゃんみたいに、へらへらしてないから、大丈夫。」と、兄ちゃんがいなくなってから、いつも強がっているように見えた。
俺は最初に会ったときから彼女のことがずっと好きだったのかもしれない。
彼女の腕が俺の背中にまわるのを感じて、胸の鼓動が高まった。
一瞬だけ、俺に兄ちゃんの面影を重ねても、構わないと思ってしまった。
彼女の心の穴が埋まるのなら、それでもいいんだ。
俺は一生引きずるかもしれないけど…それでもいいんだ。
彼女は言った。
「ありがとう、ナオヤ。」
ナオヤは俺の名前。
この気持ちは利用されてもいいんだ。
頭を首にすり寄せてきて、彼女の声は泣いていた。
酔った力が彼女を素直にさせていたように思う。
開いてはいけない心の傷を、俺は再び開いてしまった。
でも、だからといって、俺には何もできない。
何もしてあげられない。
俺は無力だ。
とことん無力なんだ。
実感が押し寄せてきて、俺は危うくつぶれかけた。
引きちぎれそうに胸の奥が痛んで、悔しさがにじみ出てきそうだった。
そばにいてあげよう。
そうすることしかできないんだ、俺には。
目を開くと、紫色のファンタの空き缶が横に倒れたまま止まっているのがみえた。
俺は何も考えずに口走った。
「いいんだ、俺は。」
彼女が俺の肩で鼻をすすったのを感じた。
きっと、彼女はすごい勢いで泣いていた。
でも、決して声は出さなかった。
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