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「ふぅー。」
タバコを美味しそうに吸う大人のまねをして、溶けかけてベタベタになった細長いラムネ(ココアシガレット30円)を指で挟んで口元に持っていく。
口から白い煙は出なかったが、俺は優雅に息を吐き出した。
なんなんだこの優越感。
これが本物だったら、どんなに気持ちいいんだろうか?
なーんて、そんなどーしよーもないコトを考えながら、18歳の俺は真夜中の不気味に明るいトンネルの中にある少しへこんだガードレールの上に座っていた。
車一台分の車道と人一人分の歩道があるこの短いトンネルの上には線路が敷かれていて、入り口にはカスカスに枯れた黄色い花が供えてある。
そうだ。
ここは女の子の霊が出ることで地元でも有名な心霊スポット。
きっと誰かがここで未練を残して死んだんだ。
かわいそうに。
呪われるとか、とり憑かれるとか、なんとかで、ヤンキーも暴走族もここを避けているという曰く付きの場所だ。
斜めに座ったせいで地面に着かない右足を貧乏揺すりでパタパタさせて、俺はプラスチックとゴムでできたオモチャみたいな黄色い腕時計を見た。
深夜0時34分。
終電もとっくに通りすぎて、怪しい静けさが場の雰囲気をもり立てていた。
目の前にある壁にはスプレーで描かれたアメリカンチックなドクロの落書き。
それを丸く囲んで意味不明な数字と文字が暗号のように並んでいる。
地元のやつらは「あの世の門」と呼んでいた。
そう言われるとそんな風にも見えてくる。
ずっと昔からある落書きだ。
俺が初めてここを通ったときには、すでに描いてあった。
他の落書きがされた壁は湿ってたり、はがれてたりしてるのに、そこだけは雨の日でも乾いていて、まったく色あせないでいた。
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