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あの女の子が笑っていた、と彼女は言う。
それが意味するものは死だ。
不気味な噂が本当なら、彼女はまきぞいに選ばれてしまったことになる。
困ったことになってしまった。
俺にはあの女の子の表情すら見えなかった。
俺は選ばれなかったんだ。
そう思って、少しホッとしている自分が嫌になる。
「ナオヤも見えたんでしょ?」
感付かれたのかと思って、ドキッとした。
「…うん。」
「どうだった?…笑ってた?」
ここで「いいえ」と答えたら、きっと彼女は、他人事だと思って横に立つ俺を憎く思うだろう。
そうは思われたくなかった。
その一心で、うつむきかげんに聞いてくる彼女に、俺は小さくうなずいた。
俺は卑怯な嘘をついた。
自分自身を本当にズルい人間なんだと実感してしまった。
それでも、彼女一人をおとしいれてしまうよりは、ましな判断だと思った。
彼女は表情を変えなかった。
「どうしよう。どうしよう。」
その言葉を延々とつぶやいていた。
俺は何ともないフリを装って、作り笑いを薄らと浮かべながら言った。
「…大丈夫だって。」
彼女が刺すように俺をにらんだ。
彼女のその怒ったような表情も俺は嫌いじゃない。
小学生の頃、彼女と通学路で「地球が太陽のまわりを回っている」のか、「太陽が地球のまわりを回っている」のかで学校に着くまでずっとケンカをしたのを思い出した。
そんな顔をされても俺はこわくないよ。
そう思いながら、言葉を続けた。
「噂はしょせん噂だよ。
大丈夫。
噂なんか、信じなければいいんだ。」
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