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中学校への通学路として俺は毎日このトンネルをくぐっていた。
落書きを気にしながら…。
日に日に落書きの意味がわかってきそうで、そう感じたある日から、あまり目を向けないように心がけていた。
この落書きと女の子の霊が関係しているのかは知らない。
でも、気持ち悪い雰囲気をむんむんと放つ不思議なトンネルだということには間違いなかった。
だからかわからないが、真夏の夜だというのに虫すら近寄らず、他の場所には無いひんやりとした冷たい空気が体を包んでいた。
何気なくけっこうな町中にあるクセに、どんだけカンロクあるんだよ、このトンネルは。
俺はラムネを再び口にくわえて、落書きをまじまじと見なおしてみた。
これと向き合うのは中学生のころ以来だ…。
そう思ってぼんやりと眺めたときだった。
静寂を打ち消し、カランッという空き缶の転がる軽い音がして、俺はビクッと思わず振り向いた。
キョロキョロと見回す視界に人影はない。
誰もいないよな?
風もないなか、不自然にコロコロと転がるファンタグレープの紫色の缶が目に入り、俺は全身の緊張をとけないでいた。
いっそのこと、目をつぶってしまおうか。
そう思った次の瞬間だった。
俺が入ってきた方とは逆の入り口の遠くに白っぽいボヤッとした人影が見えた気がした。
「…きたな。」
どうやら「今夜」は俺のためにあるらしい。
目を細めてみたがピントがあわなくて、実体のつかめない、ボヤッとした存在のままだった。
でも、それは間違いなく人影で、ゆっくりと不気味な動きをしながらコチラへ向かってきているようだった。
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