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本物の幽霊であってくれとドキドキしている自分が半分。
逃げた方がいいんじゃねーか?と焦る自分が半分。
それは思っていたよりも恐怖を誘わず、意外と冷静なままの自分を感じていられた。
あえて、ふざけあって遊んでいるチビッコ達を眺めるような感覚で、ラムネを少しかじりながら、余裕を持ってその人影を見つめていた。
もやもやと揺れて動きながら近づいてくる。
街灯が照らす黒いアスファルトの上を滑るようにスルスルと進む。
じれったいな。
早く来いよ。
そのくらいのスタンスで俺は人影を待った。
早く連れ去ってくれ。
俺を一度入ったらこの世には二度と戻ることのできない暗闇の中に引きずりこんでくれ…。
ラムネの甘い味が舌の上で心地よく流れていった。
俺はガードレールからピョンッと飛び降りて腕を組んで立ちはだかった。
俺を避けては通さない。
だんだん近づいてきて…
たどたどしい足使いで黒いショートヘアーを揺らしながら、影が、蛍光灯の強い光に照らされるトンネルの中に入ってきた。
震えながら携帯電話を握る右手が見えた。
…え?
次に乱れた服が目に入り…。
それはどうやら期待と外れて幽霊ではなかったようだ。
ぐでんぐでんに酔っ払ったただの若い女だった。
「なんだよ…。」
あんなに気張った自分がアホらしくなって、思わずため息混じりにつぶやいていた。
がっかりだ。
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