Ni-chan

7/18
前へ
/68ページ
次へ
ぼーっと立ち尽くして、頭の中を古い記憶が生め尽くしていた。 夕日に照らされた雨上がりの公園。 どうしてこんな状況の、こんなタイミングで思い出したのかわからないが、兄ちゃんの背中が頭に浮かんだ。 砂場で立ちはだかる勇ましい背中を…。 なんだこれ? なんで思い出したんだ? 自分でもわからなくて顔を歪めていた。 そんな俺を察したのか、女は苦しそうに両手で地面を叩いて言った。 「ねぇー…、ねぇー…。 聞いてよ、聞いて。」 気になる男の気を引こうとするときの、鼻にかかった高い声。 テンポをゆっくりにさせて、俺に迫ってくる。 「ずっと言えなかったんだけど、あたし、ユウトに言いたいことがあるんだー。」 ユウト? その声に、俺は、はっとして女の顔を再確認した。 知っている。 化粧してたせいで別人だと思い込んでいた。 ウルウルした瞳が俺をとらえていた。 少しハートを撃ち抜かれそうになりながら、俺はしっかりと確認した。 女の右目の目じりにナキボクロがあった。 このホクロには見覚えがある。 俺はこの女を知っている。 女は何かに気付いた俺を気にもせず、話し続けた。 「ユウくん、あたしね、ユウくんのこと好きなんだ。」 崩れかけたメイクで目を細めて優しく微笑んだ。 昔と変わらないエクボで彼女は俺を見ていた。 きっと、長年ため続けた想いなんだろう。 こんな汚い場所には不釣り合いな綺麗な心がそこにあった。 俺は素直に可愛いと思ってしまった。 いや、今思えば昔から思っていたか…。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加