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ぼーっと立ち尽くして、頭の中を古い記憶が生め尽くしていた。
夕日に照らされた雨上がりの公園。
どうしてこんな状況の、こんなタイミングで思い出したのかわからないが、兄ちゃんの背中が頭に浮かんだ。
砂場で立ちはだかる勇ましい背中を…。
なんだこれ?
なんで思い出したんだ?
自分でもわからなくて顔を歪めていた。
そんな俺を察したのか、女は苦しそうに両手で地面を叩いて言った。
「ねぇー…、ねぇー…。
聞いてよ、聞いて。」
気になる男の気を引こうとするときの、鼻にかかった高い声。
テンポをゆっくりにさせて、俺に迫ってくる。
「ずっと言えなかったんだけど、あたし、ユウトに言いたいことがあるんだー。」
ユウト?
その声に、俺は、はっとして女の顔を再確認した。
知っている。
化粧してたせいで別人だと思い込んでいた。
ウルウルした瞳が俺をとらえていた。
少しハートを撃ち抜かれそうになりながら、俺はしっかりと確認した。
女の右目の目じりにナキボクロがあった。
このホクロには見覚えがある。
俺はこの女を知っている。
女は何かに気付いた俺を気にもせず、話し続けた。
「ユウくん、あたしね、ユウくんのこと好きなんだ。」
崩れかけたメイクで目を細めて優しく微笑んだ。
昔と変わらないエクボで彼女は俺を見ていた。
きっと、長年ため続けた想いなんだろう。
こんな汚い場所には不釣り合いな綺麗な心がそこにあった。
俺は素直に可愛いと思ってしまった。
いや、今思えば昔から思っていたか…。
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