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鬱蒼とした森の中に、大きな屋敷があった。 木々に埋もれるように建っているが、三階建ての立派な木造建築だ。 強い日差しは広葉樹によって緑みを帯び、細い流れとなって降り注いでいる。ひんやりとした森の空気を風が動かし、近くを流れる小川の清々しい匂いを運んでくる。 セミが盛んに鳴いているが、その声は森に吸い込まれて騒々しくはならず、どこか寂寥を感じさせる。 全く、夏であった。 屋敷の1階、玄関から左手に進んですぐのところに食堂がある。 そこには2人の少女がいた。 「夏にも飽きてきたわ」 風に揺れるカーテンを見ながらそう言ったのは、黒髪をショートカットにした少女だった。歳は14歳くらいだろうか。白いTシャツに水色のショートパンツという出で立ちで、椅子に座って机に突っ伏している。 「そうね。ずっと夏だものね」 答えた少女は、白いブラウスと紺色のスカートを着て、本を読んでいた。髪は最初の少女と同じく黒色で、長さは肩をやや超えるくらいだ。歳は16くらいだろう。 「うー、あー」 机に突っ伏している少女が呻く。 年上の少女が活字を目で追うのをやめ、本を閉じて机に置いた。 「ねえニィ、妖精って知ってるわよね?」 年下の少女が顔をあげる。 「妖精?」 「ええ、妖精」 「ちっちゃくて、羽根が生えてるやつ」 「正解。会ったことある?」 年上の少女はいたずらっ子のようなほほえみを浮かべて訊いた。 「無いよ、そんなの。イチはあるの?」 「わたしも無いわ」 「そりゃ、そうよ。いるわけないもの」 「でも、」 年上の少女はほほえみを強くして、 「会ったことがある人のことなら知ってるわ」 と言った。
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