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「しばらく、この味ともお別れか。」
初老の男が感慨深げに呟くと、
「大袈裟だな。親父は。」
男の息子らしき若者が快活に笑う。
「しかし、事実だろう?ゲオルグ。」
同じく食卓を囲む怜悧な雰囲気を持った青年がそう言うと、
「たかが、学校に行くだけだろう。国内だし。」
ゲオルグと呼ばれた若者が呆れたように言う。
「なら、頻繁に帰ってくるのか?」
別の武人然とした青年が聞く。
二人共正反対の雰囲気を持っているのにどこかゲオルグと似たところがある。
「親父達が来ればいいんだよ。」
と、ウンザリしたように返す。
三人は顔をあわせると、ゲオルグの父親が代表するように、
「私もお前の兄達も国の要職に就いていて忙しいのは分かってるだろう?そうそう行ける機会は無いよ。お前が来ておくれ。」
父親の願いにも、
「却下。旨い物が食いたいなら自分で足を運ぶ。それが筋だ。」
と、ゲオルグは素気なく返す。
「なんだなんだ。さっきから聞いていればそなたら我が儘ばかり言いおって。ゲオルグが困っているではないか。要職に就いているのがなんだ?妾はゲオルグの居る所に食べに行くぞ。」
と、今まで会話に参加せず黙々と食事を続けていた女性がゲオルグの父親達をたしなめる。
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