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静寂な夜道を歩むと、慣れ親しんだ場所でさえも何故だかじわじわと緊張感が高まってくる。 俺はいまその真っ只中にいた。 今日に限って電車が三ヶ月に一度の調整運休を行っていたので、自宅までの距離を歩いて帰えらねばならなくなった為こんな時間になったからだ。 当然徒歩だけでこんなに時間がかかる距離な訳ではなく、とある事情が運悪く今日という一日に重なった結果なのだがまぁ、その内容は伏せておく。 自業自得というか、今日一日だけでも休めば良かったと後悔するが済んだ事は仕方がない。 近くでさわさわ音を立て、不気味さが際立つ大きな樹木を尻目に、俺はいつもの様に近道をするため如月公園を突っ切る。 『ニャー』 突っ切っている途中、そんな猫の鳴き声が聞えた気がしたが俺は振り向くことなく公園から出て来た。 この公園には曰くの話があるのだが、それよりもいま問題なのは本当に猫の鳴き声を聞いてしまったのかという事だろう。 別に猫なんてこの街には沢山いる。 野良猫以外は。 その理由を知った時、俺は猫を嫌いになったのだが、まぁ俺がトラウマになった話しを深く掘り起こすことは躊躇われるので、結局猫の鳴き声も幻聴という結論で片付けた。 翌日、いつもの様に重役出勤で自分の席に着くと黒髪のワンレンを揺らしながら蓮井がこちらに駆け寄ってきた。 何事かと思ったが、別段コイツに限ってはよくある事の様な気もしたので、「どうした?」と尋ねてやるのが正解なのだろう。 蓮井は笑顔のままで一呼吸置き、「『赤猫事件』って知ってますか?」と俺に向かって言ってきた。 その単語を聞いた直後、俺は体調が悪い事や、机の上に置いたままの鞄も全てを忘れ、学校を飛び出していた。何故かって?それは聞くな…。ただ、一言だけ言えることがあるとすれば、世の中には聞いて良い事と、聞いてしまって後悔する事があるということ。そう、ただそれだけだ。
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