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俺の知り合いには、蓮井 由香という少女がいた。
腰にかかるくらいのサラサラとした黒髪と、嘘みたいにいつも無邪気に笑っている姿が印象的であり、そしていつも俺を見かけると、後ろを追いかけてきたり、ウザイくらい話しかけてくる迷惑な奴だった。
そんな同級生との他愛もない回想を、俺は今でも目を閉じると思い出す。
懐かしい想い出。記憶にはまだ新しく、また最近のようにも感じる。だが、それは全て過去のもの。
現在では、再び手に入れることが出来なくなったものだと言うことが、心に深く突き刺さる。
喪失感。何かを失うということがこんなにも、どうしょうもなく虚しく感じさせられるのだろうか。
俺はもう何も望まない。いや、望みたくない。だが、現実は残酷だ。過去を振り返っていても、その記憶は年を重ね、歳を取るごとに、薄く儚いものへと形容し、変貌していく。
怖かった。どうしてこんなにも怖れてしまうのだろう。
あの少女の声、少女の瞳、そして仕草や温もりなど、忘れたくないものが、どんどん俺の中から剥がれ落ちていってしまう様で、とてつもない焦燥感に駆られる。
この悲しみはどこへ向いたものなのだろう。
あの少女がいなくなってしまったものからなのか、それとも、俺があの少女を忘れていってしまうものからなのか…。
俺は今でも、あの頃に囚われつづけている。
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