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【原案稿】
これは俺が中学三年の夏頃の話。
この頃の俺は喧嘩三昧の毎日を過ごしていた。
大体が俺の噂を聞き付けて因縁をつけてくる輩が多く、その全てを相手にしてきた。
2~3人相手なら余裕だが、流石に10人もいっぺんに来られた時は少しビビる。
劣勢に回る事もよくあったが、負けた事はない。
それが唯一の自慢だった。
怪我も日に日に多くなっていたがこんな事は大した事じゃなかった。
そんな感じの日々が続く頃、春先に隣町で出会った蓮井っていう同い年の少女と再会した。
呼び掛けて来たのは向こうからだ。
俺は地元の上之北の繁華街を宛てもなくブラブラしていただけなので呼び止められるとは思わなかった。
この近辺の不良は大方俺を見たら逃げて行くか顔をあさっての方へ向くからだ。
いや、居たな。ここら辺で有名な奴が。まだそいつとは喧嘩したことがなかった。
まぁその内やり合う事になるのだが、それはまた別の話だ。
俺が後ろを振り向くと黒髪のワンレン少女がいた。
こいつが蓮井という少女であり、今後も俺の分岐点に関わってくる厄介な奴だった。
「あの、お久しぶりですね」
蓮井は微笑むという表現が似合う顔で俺に向かい合っていた。
今まで俺とまともに会話をしようとした奴がいなかったのでその時の俺は戸惑った。
「どうかしました?」
「いや、別に…」
俺は無愛想に応え、草々にこの場を離れようとしたのだが、次の少女の会話が始まって帰るタイミングが掴めなくなる。
この市内に引っ越して来た事や、偶然にも同じ学校になった事、下世話にも俺の生傷を見てまだ喧嘩してるの?とかどうでも良い話だ。
時間にしたら数分のやり取りだったのだろうが、俺の中の感覚では物凄くゆったりしていたものに思った。
俺の日々にはあまりにも無縁であるこの居心地の悪さに、その日は「じゃ、俺用事あるから」といって切り上げようとした。
しかし別れ際におかしな事を伝えられた。
「もうすぐ晴れますよ」
今にしてみればこれは『あの事』を指してしたのかもしれないが、高校に入る頃には、少女の姿は俺の前から消えていなくなってしまったので、それを知る術は絶たれてしまう。
この話は、その蓮井に出会ってから、いなくなるまでの間の話をまとめたものだ。
俺は淡々と、その頃の日常を記していこうと思う。
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