序章 墜落

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細い身体が硬い床の上で跳ねた。 人形であるかのように無抵抗に崩れ落ちた少女は、虚ろな瞳で磨き上げられた白い床に映る己の顔を見つめた。 口内を切ったらしく、柔らかな唇の端からは赤い血が零れ、細い顎を伝う。 白い床に広がる闇色を帯びる黒髪を乱雑に掴みあげられ、少女は無抵抗に吊り上げられるようにして立たされた。 足首から垂れさがる銀の鎖がしゃりしゃりと床と擦れる音が酷く耳障りだ。 つま先が辛うじて床に触れるか触れないかの状態まで吊り上げられると、少女の腹に重い衝撃が走る。 少女は腹を庇おうと背を丸めようとするが、不自由な今の態勢ではそれもかなわない。 二度、三度と無防備に晒された薄い腹に叩きこまれる拳。 それもただの男の拳ではなく、筋骨隆々とした大男のものである。 その大きな拳を受けているのが華奢な少女なのであるから、小さな身体が耐えられる筈もない。 咳き込んだかと思えば血を吐いた。 男は服に血が付着するのを嫌ったのか、舌打ちをして少女の髪を一旦開放する。 倒れ込んだ少女の喉から笛の様な音が漏れた。 必死に息を吸おうとしては咳き込み、血を吐いては再び身体が酸素を求める。
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