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遊ぶって言っても、特別な事をやった訳じゃない。
商店街に繰り出してファーストフードで昼食をとって、ウィンドウショッピングをしたり、ゲーセンに行ったり。
ゲーセンでは、真君がキーホルダーを取ってくれた。コンビニキャッチャーの景品だったものだ。
私が何回やっても取れなかったのに、真君は一回で取ってしまった。
他のゲームの腕前を見ても、真君はどう考えても通っているとしか思えない。
いつの間に通っていたんだろう。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった……。
暑い日差しも少しは緩んで、月と太陽が交代する時間。
目に見えるもの全てが赤く染まっている。
太陽は明日も元気そうだ。
私たちは、通いなれた海沿いの道を歩いていた。
「赤く焦げてるみたいだな。煙が出そうだ」
真君は、空を見上げながら言った。
「面白い事言うわね」
私も見上げる。
目の前に広がる、真っ赤に染まった空。
本当に煙が出そうだった。
「ふふっ」
自然と笑みがこぼれてしまう。
「何だよ」
真君は照れているのか、怒ったように言った。
「そう思ったから言っただけ。いいだろ?別に」
「怒らないでよ」
顔が赤く見えるのは、夕日のせいだけじゃ無さそうだ。
「それにしても、今日は楽しかったわ。また誘ってね」
真君と遊んだのは本当に久しぶりだった。
意外な発見もあったし、本当に楽しい時間を過ごせた。
誘ってねって言っちゃったけど、今度は私から誘おうかな。
「……」
いつの間にか、真君が足を止めていた。
「どうしたの?」
私が訊いても、何も答えない。
下を向いたまま黙っている。
「具合でも、悪いの?」
「……あのさ」
顔を上げる真君。
その顔には、何か決意したような色が見えた。
「もう、遊びには行けないんだ」
……えっ?
意味が分からない。
遊びに行けないって、一体どういう事?
「俺の父さんが、シンガポールに転勤する事は知ってるな?」
私は頷く。
その話ならお母さんから聞いていた。
引っ越しのトラックも何度か見かけた事がある。
でも、それが関係あるの?
私の疑問に答えるように、真君は言った。
「あれな、家族みんなで行くんだよ」
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