売り買い

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毎日がこうだった。 日が昇らぬ内に作業着に着替え、雑用をこなしていく。家畜に餌をやり、雇い主の家の掃除やら給事にこきつかわれ、古株の同じ身分の者からはどやされ馬鹿にされる。物心ついたときにはこんなありさまだ。 転機は唐突に起こる。客人の前に出るからましな服を着ろと追い立てられて着替えた際、銀鈴は奥様と呼ばれるこの地方の領主の妻、豚だったら高値で売れそうな女にこんなことを言われた。 「あんた体はまぁまぁだね。遊郭にでも行きなよ」 あぁ、ついに見切られたか。私を金に変えるという決心を突き付けられ、彼女は死んだと思った。 周りでは前からつっかかって来た女共がけらけらわらう。 「紙袋被せないと男もまともにやれませんよ!気色わりぃ顔見ない工夫しないと!」 今日が最後なら構わない。腹をくくると銀鈴は手近な女の髪を掴み窓ガラスに叩き付けた。派手に割れる音、舞い散る破片が美しい。反撃に出た相手と取っ組み合いになり、顔にも体にも酷い傷を負ったまま、その日はあばら家に叩き込まれた。右目は充血し、鼻血を垂らしたまま水瓶の水をガブガブ飲み込んだ。
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