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熱い、身体中に熱いドロドロした物がまとわりつく。形のない暗褐色の何かが下半身から自分を飲み込もうとしている。「ぎゃあああ!熱い!離れろ!」どちらが上か下かも分からない空間で手足をがむしゃらに動かす。離れかけてもすぐ絡み付き、熱が動きを鈍らせる。 べたりと両耳に張り付くと、細い声が聞こえた。「ワ、タ、シ、ヒ、ト、リ、イ、ヤ」「何なんだよ!意味分かんねぇよ!」「ア、ナ、タ、ヒ、ト、リ」そいつが形を作り出した、子供が作った粘土細工の様な何とか虫の頭だとわかる物になった。恐怖に体がこわばり抵抗すら出来ない。「イ、ッ、シ、ョ、ニ、イ、ヨ、ウ」蝶のように口を伸ばし喉を突き破った。ありったけの絶叫を口が放つ、だが声帯をやつが圧迫するせいでかすれた息だけが噴き出した。 「うあああああああああ!」体に大きな衝撃が走り、目を開くとあの部屋だった。もう彫り師の男はいない、ただ身体中の異様な熱さと首に刺さっている針が恐怖を掻き立てる。 恐る恐る針に触れた瞬間、脳裏に火花が散るほどの痛みが走った。体に力が全く入らない、熱もかなり強く感じてきた。意識が再び途切れ出したとき耳元で声が聞こえた。「ミツケタ」
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