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「見つけた」暗い色の水盆を眺めていた青年がゆっくりと顔を上げた。長い黒髪の隙間から派手な髪色の男、あの彫り師をちらりと見やる。「今回は上手くいったな救伐」救伐は針を研ぎながら長髪の男に向き直った。「呪針突いて死なないのはレアですよ、まぁ狂わないでいられたらですがね」呪針というのはその彫り物に命を吹き込む物だ。ただ施術者の負担が重すぎるため、今ではほとんど行われていない。「身刻兵狩りが増えたからな。非科学的だといちゃもんつけられて仲間が減ったら国の軍力に一番響くというに」今他国は兵器を各兵士の格差の少ない科学兵器に切り替え始めている。この国もそれに続くべく切り替えのために身刻兵、そして呪身師を減らす方向にあった。社会地位を落とし、表舞台から落とすために濡衣を着せて処刑場に消えた者達も少なくはない。「何が何でも上のやつらの意思で消えるな、思い通りには絶対させない」 苦々しい顔を浮かべて水盆の水面に写る赤い蝶が大きく羽ばたいた。
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