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「お――い、ラスカル何処だ」
「迅騎さん。アライグマの名前はシンですよ」
迅騎の隣で美佐子はポリバケツを開けながら、彼の間違いを指摘した。
隣でごみ捨て場をあさっている三十代男性。黒い安物ジーパンを着こなし、真っ黒の柄の無いTシャツというラフなスタイルは、いかにも町で遊んでいる男のようでもあるが、実際はそうではない。探偵事務所を開いている私立探偵にすぎない。
ここは駅前の商店街、といっても今やシャッター街となっている。なぜ二人がここに居るかというと、今日の今朝、机の電話が鳴った――――
ジリリリリリ、と黒電話どくとくの音が鳴った。いつも椅子に腰掛けていた迅騎は腕を伸ばし、受話器を取ると眠そうに前口上を言った。
「こちら柁間探偵事務所」
「探偵さんですか」
向こう側から若そうな男性の震えた声がした。悲しげな声に「どうした」と迅騎は聞いた。久し振りの依頼かと思いながら期待に胸を膨らましながら。
「あの、ペットのアライグマを探してほしいんです」
「アライグマ?」
彼から詳しい話を聞いた。
依頼人の名前は岡田高次(おかだこうじ)ペットのアライグマを動物病院に連れていった帰りに商店街付近で逃げたらしい。
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