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アパートの一室。
柁間迅騎(かじまとしき)が扉を叩くと鍵の開く音の後に扉がチェーンの長さだけ細く開き、男の顔が覗いた。
迅騎はその男を睨むと彼の顔色が変わった。
どうやら顔に力を入れすぎたらしい。まあ、仕方がない、と迅騎は思う。
初対面の相手に睨まれれば不愉快かつ歓迎してくれる人は、まず居ないだろう。
「なにか用ですか」
「実はな」
と、迅騎がもったいぶるように用件を伝える。
「高橋ラーメンって店を知ってるか?」
「高橋ラーメン……」
その名前を聞くと彼の顔が訝しく変わった。何も言わずに扉を閉めると、中からカチャカチャとチェーンを上げる音がした。
柁間迅騎は扉の前から退くとドアが勢いよく開かれた。その場に立っていれば飛ばされていただろう。
中に居た男が部屋から出てきた。アパートの二階から降りようとしたが迅騎が立ち塞がった。
部屋はアパートの一番端、しかも階段とは逆の場所だ。男は意を決し、二階の柵を乗り越えた。
「美佐子! そっちに行ったぞ!」
迅騎は柵から頭を下に覗かし、男の背中を見て叫んだ。
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