第一話 ラーメン好きなアイツ

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「いつもより五秒おそいぞ」 「すみません」 五秒ぐらいで怒んなよ、と言いたいのだが一応上司の彼に口答えをして仕事を失いたくなかった。美佐子は机に乗った瓶を全て下ろし、乗っかった足の靴を怨みを込めて叩いた。 この私を怒鳴りつけている男が探偵の柁間迅騎。いっつも私を怒る嫌な男だ。三十歳で独身で酒、煙草、お金が大好きな男である。放置されて伸びた前髪が顔を半分隠して、ブラックジャックの様に不気味な雰囲気を撒き散らしているこの男、依頼が来ない毎日をこいつといつも過ごしている。 「今日も暇なんですから良いじゃないですか」 「いつ依頼が来るか判らないだろう。準備を怠ると探偵はやっていけねえよ」 美佐子の手を叩き、シャツのポケットからくしゃきしゃになった煙草のパッケージを取り出した。一本口にくわえて、胴の部分にドクロが描かれたジッポーで煙草に火を点けた。フィルターを吸い、先が真っ赤になった。 煙の輪を遊ぶように作ると、それを美佐子の顔にぶつけた。 美佐子は咳き込み、煙草の煙を手で払うと客人用の椅子にどっすりと座った。 「暇だな~」 「なら掃除でもしてろ」 「お構い無く」 口を尖らせて美佐子は掃除機を手に取った。 言われなくても汚い部屋を掃除してあげますよだ、バカと心で思うのが私の密かな楽しみだ。
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