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事の発端は塾が終わり、帰宅する時にばったり桜木君に出会った事だった。 塾の近くにある本屋で、立ち読みに行こうと思って立ち寄った私と出てくる桜木君が出入口ですれ違った。 冬期講習が終わってからは勿論会う事もなかった彼に偶然出会って、私は何故か咄嗟に呼び止めていた。 そして、桜木君はテニス上手いんだよね、見てみたいなあと言ったんだと思う。 “じゃあ一度見に来て下さい” 彼はそう言った。 まさか、そんな返しがくると思っていなかった私は、慌てて頷いた。 勿論行くよ、と。 中学生の時に、好きな子にボタンを貰いに行った時の、あのドギマギした感覚だった。 桜木君も私の返事にビックリしたのか私をジッと見つめた。 まだ育ち盛りの彼は、166cmの私と殆ど身長が変わらない。 でも、彼はちゃんと男の顔をしていた。
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