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私がうん、と大きく頷くと彼はふわりと笑った。
あの笑顔は見てはいけなかった。
彼はその後私に会釈すると、外に向かって歩いていった。
私はその場で彼の後姿を見送った。
甘酸っぱい気持ちで胸が一杯だった。
………
あぁ緊張する。
皆が次々と帰って行く中、桜木君はコートの掃除を最後まで手伝い、皆が帰ったのを見届けコートに鍵を掛けた。
私は緊張しながらソッと彼に近付く。
背後に人の気配を感じたのか彼が振り返った。
「あ!」
彼は絶句した。
完全に度肝を抜かれたようだった。
「こんばんは。」
「…こんばんは。」
お互いに何だか照れ臭い。
「今日だったんですね。」
桜木君は下向き加減で言った。
手に持った鍵をクルクルと回している。
「うん、丁度教育実習の橘陽子さんと一緒だったから。」
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