2人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
賑わう街。当たり前のように過ぎ往く時間。見慣れた風景・・・。
「つまらん」
人が蟻のように蠢く様子を窓から見下ろしながらユアンは呟く。
「良いじゃない、平和で」
読み終えた聖書を本棚に戻しながらスーザンは答えた。
「平和過ぎるからつまらないんだ。もう少し“スリル”のある人生の方が楽しいじゃん」
ユアンは僕らに向かって言うと、もう一度蟻のような人混みを窓から見下ろした。
「スリルって、どんな感じのスリル?崖からバンジージャンプとか?」
僕がそういうと、ユアンはクスクスと口に手を翳しながら笑った。
「ちがうよ。シアンは相変わらず面白いことを言うんだから」
・・・面白いこと、言ったかな?
そう言わんばかりの表情をさせた僕に構わず、ユアンは続けた。
「僕の言ってる“スリル”は、“悪い意味”のスリルだよ?」
悪い意味?僕はその意味が分からず、「ふーん」と答えた。
ただ一人暗い顔をしている少女が、何故あんな顔をしていたのか、その頃の僕には知る予知すらなかった。
部屋に居ると、流石に暇になってきた。
僕らはとりあえず外へ出てみようといって、外へ出た。
サルエボ教会の鐘の塔に行きたいとスーザンが言ったので、僕らは鐘の塔へ向かった。
久しぶりに行く鐘の塔。
ユアンがグラマスに行ってから一度も行っていない。
「久しぶりね、三人で鐘の塔へ行くのは」
スーザンは懐かしそうに呟いた。
「そうだな・・・、僕はサルエボ自体が懐かしいよ」
スーザンも懐かしそうな顔をしていたけど、ユアンはもっと懐かしそうな顔をしていた。
「もう二度とここへは帰ってこれなくなるんだよね・・・?」
「うん。条約が出来たからね。でも、不思議と寂しくないんだ。心のどこかで、また会えると信じてる僕が居るから」
ユアンはそういって微笑んでいた。
「あ、ほら!もう少しで塔に着くよ!」
スーザンが塔へむかって指を指し、走っていった。
塔の下へ着くと、僕とユアンに向かって手を振り早く早くと急かせる。
「スーザンは昔から変わってないだろう?」
僕はユアンに聞く。
「そうだな。全然変わってないよ。スーザンも、シアンも・・・この街も」
ユアンはそういうと、僕の手を取ってスーザンのいる塔へ向かって走った。
「変わってない。だから、早く行かないとスーザンに怒られちゃう!」
ユアンは笑いながらそう言った。
「確かに、それは御免葬りたい!」
僕もユアンと笑いながら走ってスーザンの下へ行った。
最初のコメントを投稿しよう!