序章 虚栄の輝き

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僕がこんな遊びをするに至った理由はいくつかある。単純に身分を偽ることで、面倒な関係になっても足がつかないようにするためだったり、ちょっと年収が高いオーラを出すことによって女を口説きやすくするためだったり。まあ結局は、当時の僕は等身大の自分に自信なんて持てなかったのだろう。定職がない借金まみれのフリーターだったから。大学の同期たちは一流企業の会社員ばかり。もう肩身が狭くて狭くて、二十四時間悔しさやら情けなさやらがこの身を刺していた。 すすきのの女のコたちは優しかった。それは本当の自分じゃなかったけど、誰とも比べず、同情もせずにただ僕の魂を抱きしめてくれたから。そして僕も、本名すら知らない女のコたちを強く抱きしめていた。それだけで幸せだった。その瞬間だけが、僕を劣等感という暗闇から救ってくれる唯一の時間だったのだろう。 家の借金の支払いも殆ど終わった頃、少し財布が潤った僕は、月に一度ではなく週に一度のペースですすきのに通うようになっていた。でもけして高い店には行かない。高い店の女のコはプライドも高いから。プライドが高い女はコストパフォーマンスが悪すぎるのだ。そして安すぎる店にも行かない。理由は察してほしい。ちょうどその頃、僕は労働法に興味を持ち始めていたので、暇な時間は社会保険労務士のテキストを読むようにしていた。鞄にテキストを入れ、またヘルスに足を向ける。そう、今度は『社労士』になってみたのだ。その日のお姫様はあみ(仮名)といって、同い年の子だった。あみとはすぐに打ち解けることができた。音楽、映画、そして何と旅行の話まで合う始末。出会い方が違ったなら、恋をしていたかもしれないくらい、あみは素敵な子だった。僕も素敵な男性を一生懸命演じた。“社労士で全国を飛び回ってる”という設定にしてみたが、正直自分でも意味不明だった。そんな意味不明な自分でも、あみは優しく包んでくれた。その夜、僕の携帯のアドレス帳が一件増えた。『あみ(社労士)』という名前で。 あみとはそれから何回も会った。お店ではなく、プライベートで。あみは本当に付き合い易い子だった。ホテル代を最低でも割り勘にしてくれるし、変なプライドもない。一緒にいてあんなに楽な女の子は滅多にいないだろう。
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